新規大腸がん関連遺伝子と腸内細菌叢の解析による多発大腸がん発生機構の解明

青木 敬則  札幌医科大学, 医学部, 研究員 (40749496)

内視鏡的に診断・生検・切除された大腸腫瘍および単発・多発大腸がんを解析対象とした。多発大腸がん症例の腫瘍部、背景正常粘膜の全エクソンシークエンス、全トランスクリプトーム解析を施行した。健常者、大腸腫瘍・大腸がん患者より採取した便および粘膜洗浄液からDNAを抽出し、腸内細菌叢のメタゲノム解析を行った。
全エクソンシークエンス解析から、多発大腸がん症例のがん部、背景正常大腸粘膜に共通する変異として、遺伝子Aを同定した。同定した遺伝子Aの一塩基多型をパイロシークエンサーを用いて多数例で検討したところ表面型腫瘍および多発大腸がんと極めて高い相関を示すことを見いだした。
次に遺伝子Aの一塩基多型による大腸粘膜の遺伝子発現への影響をみるために、全トランスクリプトーム解析を行った。遺伝子Aの遺伝子型によって正常大腸粘膜で発現が異なる遺伝子272個を抽出し、Gene Ontology (GO)解析を行った結果、免疫システム・免疫応答と高い相関を示すことがわかった。また16S rRNA遺伝子を用いた腸内細菌叢のメタゲノム解析を施行したところ、遺伝子Aの遺伝子型により腸内細菌叢のパターンが異なる事が示唆された。
遺伝子Aは溶菌活性を持つ酵素に特徴的なLysMドメインを持つことから、腸内細菌叢に対する防御や腸管免疫に関与していることが推測される。これらの結果から、腸管免疫関連遺伝子と腸内細菌叢の相互作用が、表面型腫瘍および多発大腸がん発生に関与していることが示唆された。大腸がんリスクマーカーとしての臨床応用を目指し、正常大腸粘膜検体と糞便から抽出したDNAを用いて比較検討したが同様の結果が得られることが確認でき、糞便検査にて遺伝子Aの一塩基多型を検出することができることを明らかとした。また多数例の健常人、大腸腫瘍患者の糞便中の遺伝子Aの一塩基多型解析が大腸腫瘍リスクと関連することが示唆された。